久しぶりのレビュー記事になります…。
サンドラ・ブラウン【凍える霧】
もう最高でした!!
個人的にロマンティック・サスペンスに欲しい要素が全部入っているような感じです。
これはもう、私のサンドラベストが出たかも…と。
そして、レビュー記事を書かなければ…と。
凍える霧
さて、サンドラ・ブラウン【凍える霧】
2019年に集英社さんから刊行されたロマンティック・サスペンス作品になります。
今作は、本国アメリカでベストセラー入りの記念すべき70作目だったとか(巻末解説より)
サンドラ先生の綿密なリサーチによって描かれたこちら作品(巻末の謝辞より)、
医学に関しても航空機に関しても、とてもリアリティ溢れる内容で、彼女のロマンティック・サスペンス特有の疾走感と臨場感がたっぷりで素晴らしかったです!!
各々の思惑が複雑に絡み合い、思わぬところに思わぬ影響を及ぼし、息もつかせぬ展開に、ページをめくる手が止まらなくなりました。
そして、濃密なサスペンスをベースにしながらも、そこはさすがサンドラ・ブラウン。
読者がとろけるような甘いロマンスもしっかり入れてきます!
サスペンス部分も、ロマンス部分も大満足の秀逸な作品でした。
あらすじ
ニューヨークタイムズ紙No.1ベストセラー
どんでん返しの連続で、真相への視界はゼロ。
フルスロットル・ホット・サスペンス!
航空輸送専門のパイロット、ライ。未曽有の濃霧が立ち込める中、不審な黒い箱を運ぶが、着陸直前に何者かの妨害を受けて、墜落してしまう。その現場にやってきたのは、女性医師のブリン。黒い箱の早期回収にこだわる彼女がひた隠しにする事情とは何なのか? 一方、箱の中身のためなら手段を選ばない者が他にもいて、ブリンを執拗に追うのだった……。二転三転と展開する、五里霧中サスペンス。
(出典:Amazon)
読了後の感想
なんということ!!!
サンドラ・ブラウン作品には、いつも驚かされる。
終盤に差しかかり、物語が一気に加速。大どんでん返しが起こり、最高の場所に着地する。
読者は、作中の登場人物の複数の視点を通し、作品の世界を俯瞰して覗きながら、ストーリーが進行していくのだが、どこかピースがかみ合わない。
大事な何かが足りない。でもその”何か“が分からない。
読者はサンドラ先生の巧みなテクニックで、そんな迷宮の中に引きずり込まれる。
そこまでがセオリー
この作品も例外ではない。
H/Hの二人と共に、真実を求めて深い霧の中を手探りで進む。
最後の40ページ、目の前を覆っていた靄が一気に晴れる。
なんだろう、この爽快感は…。
サンドラ作品にしては癖が少なく、老若男女問わず楽しめる(いや子供にロマンスはダメか)作品。
他の作品に比べると、正義側と悪側が割とはじめの方からはっきりしていて、かつヒーローがヤバいやつというわけでもなさそうなので、“得体のしれない人物”と逃避行するような感覚はあまりないけど、手元に“得体の知れないブツ”がある(笑)
ヒロインのブリンがなかなか胸の内を明かしてくれないため、その部分に靄がかかっているが、何かしらの”プラスの目的”があっての行動なのだろうとは思える。
読者はライと共に何やら大きな渦の中に巻き込まれていくことになるが、ヒロイン・ブリンが必死で守る黒い箱の中身が判明してからはゴールが明瞭でわかりやすい。
ただそのゴールまでの道のりが険しく、危険な追手が迫り、さらに時間制限付きときた。
“大きな目的をもって動くヒロインと、初めは何もわからず巻き込まれていくヒーロー”という構図も面白い。
ヒーロー視点が多いところも、(ヒーローが怪しくない)この作品ならではの魅力の一つ。
ぶっきらぼうで多くを語らず、でも時折見せるやさしさと情の深さ、そしてそのセクシーさに読者も骨抜きにされること間違いなし。
この作品、解説もすご〜く良くまとまっている(でも私の見解とは異なる部分も多少あった。ここについては後述)のだけど幾分詳しすぎるので、解説を読むのは最後に取っておいて、次第に明かされる真実に「え!そうなの!?」と驚きながら読み進めてほしい。
Tailspin
原題は【Tailspin】
その意味はというと、
Tailspin
①(飛行機の)きりもみ降下
ジーニアス英和辞典
②(制御不能な)急激な悪化,(経済の)恐慌,(株価などの)急落
普通に考えたら①の「きりもみ降下」という意味でしょう。
でも、読了後に改めて考えると②の「急激な悪化」も気になって、もうちょっと調べてみたところ、「意気消沈,スランプ」という意味も出てきました。
…うん。言われてみれば確かに、ヒーロー・ライは人生のスランプ中みたいな感じだったかな…。
私の推しポイント♡
この先、本文の引用あり。ネタバレはなし↓
魅力的なヒーロー
「あなたはコロンバスに住んでるの?」
P.57【凍える霧】
ライは首を振った。 「そこが最後に着陸した場所だというだけだ」
「だったら、うちはどこなの?」
「最後に着陸した場所」
ライ・マレット
濃霧の中も飛行機を飛ばしちゃうアメリカ空軍出身の凄腕パイロット。
「俺を巻き込むな」とか言いながらとても情に厚いタイプ。
「お前のためじゃない。俺が後悔したくないだけだ」と言いながらヒロインのことをめっちゃ守る。
パイロット資格を取得した16歳の時に、アンティークショップで買った茶色のボマージャケット(第二次世界大戦時のもの)を愛用。
彼は犯罪者でもなければ、潜入捜査官でもない。
でも自分のことは頑なに語ろうとしない。
どうやら過去に何かあったらしい。詳細は省く(笑)
ただ一つだけ言わせて…。なんて良い男なんだ!!
彼はかわいいタイプでもないし、凜々しい美男子でもない。でもどこか危険な香りがした。秘められた激しやすさとか、生々しい性的な魅力とでもいうものがあり、女はいずれ後悔することになるとわかっていて、そんなものにうっかり反応してしまう。一度に二十分以上はロマンティックな関係を結んでいられないタイプの男。でも、その二十分が――
P.185【凍える霧】
5ページに一回は出てくる萌えセリフ(会話)の数々
彼女は沈黙を守った。「え? ヒントもくれないのか? おいおい。あそこまで厳重に梱包されて、時間的な制約がある荷物といったら、なにがある? ばあちゃん秘伝の、感謝祭のためのヤムイモの砂糖煮に使う食材か?」
P.35【凍える霧】
ここなんですよ…サンドラ作品の好きなポイント…
このサンドラ先生が書く台詞のセンスが堪らなく好き…♡
“ばあちゃん秘伝の、感謝祭のためのヤムイモの砂糖煮”とか
“火星で発見された人間の指の骨”とか
サンドラ作品のH/Hは、ほぼ常に極限状態にいることが多いのだけど、シニカルでシュールな笑いを的確に入れてくるので、
(ここ、笑うところじゃない…笑っている場合じゃない…)と思いながら、読者の私は笑いを堪えて頬がひきつります。
だからバッジを持たない誰かがおれたちについて訊きに来たら、知らぬ存ぜぬで通してくれ。どう言われようと、楯突くな。とんでもないばかで、新生児のように無垢で、おれたちのことなど聞いたこともない、というようにふるまうんだ」
P.492【凍える霧】
ブロマンスも楽しめるかも…?
ダッシュは葉巻をくわえてしきりに噛んだ。 「なあ、ライ、 ほんとにだいじょうぶ――」「なにをぐずぐずしてんだ、ダッシュ? 別れのキスでもしろってか?」
P.18【凍える霧】
ヒーロー・ライと、猛烈な悪天候の中、彼を送り出した雇い主のダッシュ
たびたび挟まれる二人の会話(主に電話とメール)が非常に良い。
ライとダッシュの軽快なやりとりに、耳が…いや、脳がとても潤った♡(←私はセリフ萌タイプ)
不機嫌な声で電話に応じた。「モーニングコールのつもりか?」
P.309【凍える霧】
「寝てたのか?」
「ああ」
「ホテルはどうだ?」
「正直言って、ほとんど見てない。寝床はあった。それでじゅうぶんだ」
「で、そのなかにいると?」
「そう言わなかったか?」
「ああ、だが嘘だな」
ばれていることに内心驚きつつ、いらだっているふりをした。「尾行でもしてるのか?」
おおっと!これはもしや〈ブロマンス〉というものでは!?
いや、違う?わたしのBL脳が暴走しただけ?
と、くだらない冗談はさておき、この二人の会話が本当に面白いので見どころですね。
「彼女?」
P.126【凍える霧】
「ドクター・オニールのことだ」
「おまえが言ってるドクター・オニールは女なのか?」
「なんだ? 女医に偏見でもあるのか?」
「いや、女医のほうが好きだぞ。おれが大嫌いなのはな、破壊工作を受けておれの飛行機のなかで死にかけておきながら、詳しい話が聞きたいのに、何時間も連絡してこず、やっと連絡してきたかと思えば、おれを堂々めぐりさせて なにを考えてるんだか――それでおれが満足すると思ってるパイロットだ」
とにかく翻訳が素晴らしい
「なんたること」ネイトがうめいた。
P.517【凍える霧】
「よりによって。あの男は疫病神だ」ブリンのなかに新たな希望が芽生えた。
なんてこった!(←これはランバートのキャラ的に絶対違う)でもなく、
なんということだ!でもなく、
“なんたること”
ここですよ…。だから、私は林 啓恵先生の訳が好きなのです…。
他にも林先生の訳がピカーと光る日本語がたくさん含まれています。
もしも私がとんでもなく英語が堪能で、(ありえないけど)ネイティブ並みに原書を理解できたとしても、林 啓恵(訳)は必ず読みたいと思う。
ここから先は既読の方向け↓
ここから先は一応 既読者向けとなります。
未読の方は、特に下の【解説で少し引っかかったところ…】は絶対に読まないでくださいね…
お気に入りのシーン
ライはなおも怒りをたぎらせながら言った。「ジーンズを脱げ」
P.192【凍える霧】
「なんですって?」
「ジーンズを脱ぐんだ」 彼は一語ずつ強調するように繰り返した。
一瞬、リンダ・ハワード【青い瞳の狼】パターンが始まるのかと思った(笑)
「修道院で育ったわけじゃないのよ」
P.349【凍える霧】
「そりゃそうだが、飛行機乗りに誘われたことはあるのか? やつらは時間を無駄にしないぞ。 こまやかなことをしてる暇はないんだ。一、二時間のうちに飛び去るとなれば、できるときに手に入れようとする」
ブリンの尻に手をやって引き寄せ、頭を下げて、口を彼女の唇に近づけた。
少しずつ挟んでくるロマンスシーンがまた格別で…♡
「これが終わったら、おれはまた去る」
P.448【凍える霧】
「もう十回は聞かされてるけど、最初に聞かされたときから、わかってるわ」
「にしたって、やってくれるじゃないか、ブリン」
「なに?」
ライは顔を上げてブリンを頭のてっぺんから足のつま先まで見て、ささやいた。「なんで知ってるんだ? おれのお気に入りの空想そのものだ」
「そうなの?いつから?」
「あのドアを入ったときから」
ここはもうライだけじゃなく、私もやられたーー!!♡♡(笑)
このシーンは男性なら垂涎ものだろうね~
やってくれるじゃないか、ブリン!
(この次の項目は若干のネタバレを含んでいるので未読の方はこちらへ)
未読の方はNG↓
※この項目は、未読の方は読まないでください(次の項目へどうぞ)
読了後にふりかえってみると…
この作品には、ライが過去を乗り越えて前に進むというテーマがあった。
他者の命のために全力で動きながら、自分の人生には10セントの価値もないと自虐する。
安全とは言えないフライトを率先して引き受け、自らの運が尽きる日を待ちながら生きていたようなライに対して、
医師であり、不治の病に侵された患者とその家族をそばで見てきたであろう、ブリンの
「自分の命が失われることを悲しむ人たちがいるのを知りながら、命を軽視するのは身勝手よ」
という言葉が刺さる。
過去に囚われながらも、根っこは熱く絶対に諦めない男で、
ブリンが弱気になっても「球を持ってるあいだは、きみにも勝ち目がある」と励ますライ。
時折、バイオレットの視点で語られるのもとても良い。
【殺人者は隣で眠る】でも思ったけど、サンドラ先生は子供視点が上手すぎる…
そして、もしかして、この作品の影の主人公は、ゴーリアドだったのか?
とすら思える驚きの結末。
主君にどこまでも忠実な男。あっぱれ。
読み終わって気が付いたけど、この作品、ヒーローとヒロイン共に瀕死のケガを負ってない!
刺されてもなければ、撃たれてもない!!
私が最近読んだサンドラ作品(氷の城で熱く抱いて)は、割と冒頭の方でヒーローがヒロインに車で轢かれてたよ?そして、その後ずっと満身創痍だったよ?
他の作品に比べると、あまり物騒じゃないのかも(笑)
ブリンは小声で尋ねた。「あなたの子どもだったらどうする?」
P.299【凍える霧】
「研究所のドアを蹴破って、みずから盗みだす」
ライの過激さにプリンはほほ笑んだ。
「冗談だと思ってるな」
「まさか。大真面目だとわかってるわ」
「解説」で少し引っかかったところ…
ヒロインのブリンに対して、
自身のキャリアへの欲もあり、決して清廉潔白な人物ではない。むしろ人間としての弱さも抱える普通の人が、目の前の困難に苦悩しながらも、最後には顔を上げて生きられる道を選ぶすがすがしさに胸を打たれる
P.608
という部分。
エピローグで、
「わたしがあれをやったのは、一部、自分のためでもあった。喝采を受けるためではない。有名になるためでもない。でも――」
「犯罪者の娘である負い目を埋め合わせるために」
P.595
という会話がある。
そこから考えると、ブリンの野心は自らの生い立ちによるもので、【善い行いをすること=自分を恥じたくない】という想いが根底にある。
それを”自身のキャリアへの欲もあり、決して清廉潔白な人物ではない。“と要約するのは、少し引っかかる。(もしかして私、ヒロインに情が移ったのかも?)
清廉潔白でないのは彼女の父親であって、彼女じゃない。
ブリンが強硬手段に出たのは、その時点で自分の患者を救うため、ほかに道はなかったから。
ここでブリンが何の行動も起こさなければ、薬は悪徳上院議員の手に渡り、バイオレットの元に届く可能性はゼロ。(いずれ正規ルートで使用できたはずだけど…)
皮肉にも議員夫妻の後の行動で早急に薬事承認が出たけど、もしライが墜落炎上していたら?
最初からブリンが諦めて議員に薬を届けていたら?
それこそ、清廉潔白じゃない人になってしまう。
「上院議員に使うにしろ、バイオレットに使うにしろ、未承認の薬を持ち出している時点で清廉潔白じゃないじゃないか!」と言われたら、まあそれはそうだけど(笑)
そして”最後には顔を上げて生きられる道を選ぶ“とあるけど、
ブリンは元々、薬をバイオレットに届けようと奮闘してましたよ…?
一つしかない薬を、適切な人物に届けようと手を尽くすブリンは、とても真似できないほど勇気ある女性に映りました。
どちらかというと生き方を変えたのはライの方かな?
早急に薬事承認が出たのはたまたまの(フィクションの所謂ご都合主義的な)ラッキーであって、普通ならそのお咎めを受けてるところだろうよ…(笑)
さいごに
普段はワルヒーロー推しの私。(*^^*)
こちらの作品のヒーローは、そんなにワルじゃないです(笑)
でも、クールでセクシーで、陰のある渋いヒーローで、もう最高に格好良かった!!
ロマンス小説は、重点・力点がどこに置かれるかは作品によって違うものですが、大抵はホットシーンが含まれています。
中には読者を置いていきがちな作品もあります。(だってなんか急に始まるんだもん…。心の準備をする時間をください…泣)
その点、(特に最近の)サンドラ作品はホットシーンが少ないと言えるでしょう。
ですが、あなどるなかれ…。
作中に少しずつ散りばめられたセクシーな雰囲気に、H/Hと共に読者のボルテージも最高潮になったところで、大きな波がバシャーンと来ます。
それはもう悶えますよ。萌え転がりますよ。
そして、サンドラ先生が紡ぐウィットに富んだ言葉の数々…
それを支える林 啓恵先生の訳ですよ。
私は洋書は読みませんし(読めない)、もちろん翻訳を習ったこともないので、訳文の良し悪しについては分かりかねます。
なので、訳文は「好きor好きじゃない」という極々個人的な好みによる評価しか出来ませんし、この辺はもう日本語が自分に「合う合わない」という話になってくるのかなと思います。
そして、私は 林 啓恵先生の訳がとてもとても大好きです。
的確にポイントをついてきて、心の琴線に触れまくります。
そりゃもう、全く興味のなかった本でも「林 啓恵 訳」の文字を見れば、よし、買おう!と思うレベルです(笑)
これからも、
サンドラ・ブラウン(著)×林 啓恵(訳)
はもう、速攻で買いますね。
最終的に、サンドラ作品への愛を叫んでいるのか林先生の訳文への愛を叫んでいるのか、自分でも良く分からなくなったので、この辺でそろそろ終わりにしようと思います…(笑)
最後まで読んでくれた方がいらっしゃるかはわかりませんが、もしいらっしゃいましたら、拙い文章にも関わらず、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
Chocolatte♡
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