あまりに好みドストライクのハーレクインに出会ってしまい、読了後しばらく経ってもその感動冷めやらぬ状態が続いておりまして、久しぶりにレビュー記事を書いてみました!
あらすじ
【ハーレクインセレクト版】
親友の恋人の城で開かれた仮装パーティで、リリーは巨万の富を持つスペイン侯爵、トリスタン・ロメロに出会った。抗い難い彼の魅力にとらわれ、城のはずれの塔で一夜をともにしたあと、それは単なる束の間の戯れだと冷たく宣告されてしまう。リリーは翌朝、彼が目を覚ます前に城をあとにした。ひと月半後、彼女は予想外の妊娠に気づく。この子はひとりで育てよう。でも、父親の愛を知らずに育った私と同じ思いは味わわせたくない……。妊娠を打ち明けたリリーのそんなささやかな願いを嘲るように、トリスタンの冷たいブルーの瞳がリリーを射貫く。「認知をする条件は結婚――いやなら子供との関わりは一切持たない」
■600年の歴史を誇るスペインの名門貴族との愛なき結婚。我が子愛しさゆえに、心の通わぬ夫との空しい生活を受け入れたヒロインでしたが……。C・モーティマーを思わせる作風が魅力のI・グレイが描く、エキゾチックな波瀾の恋模様をお楽しみください。
(出典:Amazonより)
補足:HR by Harlequinから出ている『百合の女』は本書の再編集・改題書だそうです
感想
“人は誰しも自分の過去の犠牲者”
人が何かを選択するとき、その人の過去が影響を与えます。
このヒーロー・ヒロインも辛い過去があり、そのことが二人の関係に暗い影を落としています。
あまりにも悲しくて(ハーレクインでそこまで書かなくていい…という意見もわかる)評価は確実に分かれると思いますが、儚くも美しいラブストーリーでした。
ハーレクインというより、海外ロマンス、恋愛小説的と言ったほうがいいかもしれません。
まず文章の美しさに惚れ惚れしました。それぞれのシーンが重要なピースとなり、完璧に調和しているのです。
プレイボーイの仮面を被り、冷たく心を閉ざしたヒーローが生まれながらに背負う十字架がなんと重いこと…
本当はヒロインと同様、慈愛に満ちた心を持っているのに、それを認めずに(本人は罪滅ぼしだと思っている)生きているのです。
そしてヒーローが愛を自覚した瞬間、残酷な運命が二人に降りかかり…
愛し合いながらすれ違う二人の切なさと苦悩が、見事な筆致で描かれていました。
最後のエピローグまで、とっても良かったです。
またじっくり読み返したいと思う一冊です♪
以下、ネタバレ注意
今作は神話や聖書から様々なモチーフがたびたび登場し、その一つ一つがアトリビュートとなって、物語にさらなる深みを与えています。
読み進めるうちに気がつき始め、読み終えた時の感動といったらもう…(泣)
まずH/Hの名前から
ヒーローの名はトリスタン Tristan
トリスタンは伝説上の人物で諸説あるようですが、母親から「悲しみの子」という意味で名づけられた点は共通するそうです(Wikipediaによると)
ヒロインの名はリリー Lily
百合の花のことですね。
宗教画において百合の花を持つ女性は「聖母マリア」を表しています。
きっとヒロインはヒーローにとっての聖母マリアということなのでしょう。
仮装パーティーで…
H/Hが出会う仮装パーティーの余興では、ロビンフッドの格好をした男性が白い鳩に矢を放ち、怪我を負った鳩は奇跡的に墜落を免れ塔に下ります。
この時のロビンフッド(英国12、3世紀ごろの伝説上の義賊)はヒーロー、鳩(カトリックでは精霊が白い鳩の姿をしている/ 神と人をつなげ、人を幸せに導く役割)はヒロイン、もしくは二人の子どもを表しているのではないかと思います
その鳩は悲しい最後を迎えたようなので、鳩を救おうとしたヒロイン/見捨てようとしたヒーローを考慮すると、二人の子供であった可能性が高いですね。
この白い鳩に導かれるようにして、二人は結ばれるわけですから、やはりヒロインが身籠った子を暗示していると考えるのが一番自然です。
また、ロビンフッドは聖母マリアを崇拝していたとのこと。この点でも彼がヒーローを表していると考えて矛盾しません。
つまり、この序盤のシーンで物語の行末を暗示しているのです。
こんな手法を取っているハーレクインは他に見たことがありません。
凄くないですか!!(大興奮)
トロイのヘレネか、収穫の女神デメテルか、月の女神セレネか
“淡い金色の髪と枯れ草の色がひとつに溶け、最初はそこにいることにも気づかなかった。金色の葉を編んだ冠を頭にのせた姿は、さながら収穫の女神のようだ。”
「さっきの君は黄金に輝くデメテルのようだったが、いまは月の女神のセレネを思わせる」
仮装パーティーのテーマは【神話と伝説】
ヒーローは初め、ヒロインの格好を豊穣の女神デメテルだと見ています(ヒロインはヘレネのつもりだったらしい)
その後、夜に塔で再会したときは月の女神セレネに見方が変わります。
おそらくデメテルはヒロインの懐妊、そしてセレネは文中にあるようにエンデュミオン(不老不死の永遠の眠りにつく)の話につながるのかと。
もちろんヒーローは死にませんが、ヒロインのおかげでその後の人生が安らかなものになったのは間違いないでしょう。
スペイン異端審問
“トリスタンは、ぞっとするほど冷たい笑みを浮かべた。「そのとおり。我が一族の、腐敗と罪の象徴」”
スペイン異端審問が本作の重要なテーマの一つとなっています。
それゆえストーリーが重くなっているのですが…。
↑引用部分で予想がつくかもしれませんが、ぜひ本作でチェックしてみてください!
最後に
自分は大好きだけど「おすすめか?」と聞かれると少し返答に困ってしまう作品がありますよね。
私にとって、本作がまさにそんな感じ。
そして本作の終盤のシーンが『二度めの旅立ち』と少し被るんですよ…
『二度めの旅立ち』ではヒーローが言うセリフを、本作ではヒロインが言っているのです。
積極的におすすめはしませんが、私にとってはずっと大切にしたい大好きな二冊です♪
Kindleはセレクト版がお値打ち↓
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